ある日のマラソン大会

2018.10.13

ある日のマラソン大会

今日は10キロマラソンの日。いつもは食べるのをセーブしている菓子パンも、大会の朝は大手を振って食べられます。走るためのエネルギーは糖質だからです。

血液中にエネルギーを取り込まなきゃね。今日は中に生クリームと小倉餡の入った菓子パン。コーヒーと一緒に食べるのは、至福のひと時です。

 

「それじゃ、行ってくるからね、おいちゃん」

 

 

私はおいちゃんに挨拶してから、用意してあるスポーツバッグを下げて家を後にします。

電車の中には、運動用のジャージにリュックサック、あるいは大きなスポーツバッグを持った人達が何人かいました。この人達も同じ大会に出るのでしょう。

 

会場の最寄り駅には、たくさんのランナーがぞろぞろ歩いているので、たとえ初めての場所でも迷うことはありません。方向音痴の私にはありがたい限りです。

受付を済ませて身支度をすると、荷物を預けてスタート地点へ向かいました。なるべく前の方に陣取ります。慣れないうちは緊張のあまり、スタートの前は何回もトイレに行ったものでした。

 

いよいよスタート。スタートの合図とともに走り出します。お腹が重い。菓子パンを食べ過ぎたかしら?

火事場のバカ力と言うのでしょうか、大会では、いつもなら出ないようなスピードが出ます。折り返し地点で女子の人数を確認します。一人、二人…ひょっとして入賞できそう?

そうなるとまた元気が出て、スピードが上がります。距離表示を見ると、今8キロ地点…

頑張れ、なずな!あと10分も苦しめばゴールだ。それ以上に頑張れば、もっと苦しむのが短くなるぞ!

そんなこと言ったって、ああ、息が苦しい。

ほら、もうすぐゴール。ゴール地点の役員がゴールテープを持っている…

そこをめがけてゴール!

 

なんと総合3位です。しかしレベルの低い大会だこと。女子の一位は52歳、2位は53歳、3位が当時57歳のなずなでした。

 

「若い人はどうしたんでしょうね」

 

 

オバさん3人は着替え用のテントを占領して、のんびり着替えたのでした。

 

表彰式では、一位の女性がご主人に写真を撮ってもらっていました。ご主人も参加したようですが、入賞したのは奥様だけです。

二位の女性は慣れているのか、淡々としていました。

三位の私の表彰が始まります。

 

「私の写真、撮っていただけますか?」

 

一位を取った女性にデジカメを差し出すと、

 

「いいですよ。でも、主人の方が上手だから」と、

 

ご主人にデジカメを渡しました。

表彰が終わって、デジカメを受け取ります。

 

「ありがとうございました」

 

「いいえ、とんでもない」

 

女性は、優勝トロフィーを、バッグにしまっています。優勝した人だけがもらえるそれは、透き通った青と無色のアクリル樹脂でできていて、私には大変きれいに見えました。

 

「俺が持つよ」

 

ご主人が荷物を肩から下げると、二人並んで歩き始めました。

私は、ちょっと上目遣いに二人を見ると、貰った賞状と賞品を手に、一人で会場を後にしました。

 

 

家に帰ると真っ先においちゃんに報告です。

 

「おいちゃん、おいちゃん!総合で3位だよ!」

 

私が大会から帰ると、おいちゃんはいつもソファに寝そべって時代小説を読んでいました。そして顔だけこちらに向けて笑顔で言ったものです。

 

「そうか、良かったなあ」

 

 

今回も私は得意満面で、賞状と商品をおいちゃんに見せました。

 

「おいちゃん、総合で3位だよ。年代別では優勝だよ、見てよ、これ!」

 

 

一般に、妻は夫の応援に行くけれど、夫は妻の応援には来ないようです。おいちゃんもそうでした。

はじめのうちは一緒に参加していたのに、そのうち家で待っているようになって、

 

「良かったな」

 

と言うだけになりました。

 

そして今では。

 

 

「それにしてもレベルの低い大会でさ、1位から3位までみんな50代!」

 

私がそう言っても、おいちゃんはテーブルの上でこちらを見て、ほほ笑んでいるだけになりました。

 

コメントを残す

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。

ABOUT

このブログを通して、大切な人を亡くし途方に暮れている方と悲しみを分かち合い、亡くなった方への感謝の気持ちを共有する一助となれば幸いに思います。
~雑草のようにたくましく生きる

畦道なずな

TOPICS

CONTACT

by NAZUNA

必ずご返事するとは限りません。あらかじめご了承ください。

support byさくら葬祭